商品のコンセプトをお客様に伝える
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高級コンパクトカメラ「GR1」の事例

背景と商品コンセプト

'94年に発売された当時世界最薄、最軽量を実現したコンパクトカメラ リコーR1のユーザーより、高画質を望む声が多く寄せられ、そのボディに高性能レンズを組込んだ高級コンパクトカメラを開発することになった。

メインターゲットユーザーはハイアマチュアと呼ばれる写真愛好家たちである。薄さ、軽さを武器にスナップ撮影や一眼レフのサブカメラとして常時携帯されるカメラを目指した。 レンズ性能は一眼レフの単焦点レンズに劣らないこと。 価格は10万円。少量ながら5年以上生産を続けられるのが条件だ。

デザインコンセプト

写真愛好家が欲するカメラには「ヴィンテージもの」や「ブランドもの」もあるが、メーカーとしてのブランド力もなく、それらと差別化するためにも本機の位置づけを「プロが使う道具としてのコンパクトカメラ」とし、デザインのターゲットをプロの写真家に設定した。プロが使う道具であれば、ハイアマチュアが欲しくなるはずだ。そして、流行に囚われないロングセラーをつくるため、デザインコンセプトを「10年使われるプロの道具」とした。

高性能な道具であることを伝えるために

まずは、プロに10年以上使われつづけてきた一眼レフカメラの操作性に着目し、撮影に入る前、電源を入れる前でも撮影の設定が一目でわかるアナログ操作の利便性を認識した。そこで、絞り/露出補正/フラッシュ設定はアナログ操作の視認性と操作性にこだわった。これは店頭で見て、すぐに各種マニュアル設定ができる本格的カメラであることを知らしめる手段としても有効である。

コンセプトを表現する素材探し

当時、高級コンパクトカメラといえばチタン外装というのが流行っていた。それらはCONTAX、Nikonといったブランドを伴にした競合機であり、後発でブランド力のないRICOHとしては、どうしても差別化が必要であった。もちろんコンセプトが求める薄さ・軽さ・強さにおいてチタンより優れたもの。当時ノートPCの開発にも関わっており、その内部フレームにマグネシウムダイカストが使われていることを知った。その特性は実用金属中、強度/比重で示される比強度が最も高い。また流動性が高く寸法安定性にも優れており、精密部品に適している。その反面、表面処理が難しく、当時は塗装するしかなかった。

信頼できる道具としてのかたちと手触り

当時エルゴノミクスデザインといった複雑な曲面が流行っていた。しかし、プロ用一眼レフだけでなく、鑿(のみ)や包丁といった職人の道具は非常にシンプルなかたちをしており、ハードワークにはそれが一番使いやすいということを示している。

職人が使う道具にはシンプルなかたちの中に研ぎ澄まされた緊張感がある。バランスのとれた美しさがある。それをダイカストの特徴を活かして表現した。小さなボディにエッジを効かせたデザイン。0.1mmの段差や極度に浅い勾配の斜面。絞り加工ではできない造形で金属の強靭さ、精密さ、緊張感を表し、他との差別化を図った。表面はガラスビーズを混入させた塗料を吹きつけて焼付けすることで、ビーズを溶かし独特の凹凸が得られる塗装を施した。これは金属でしかできない焼付塗装であり、表面のザラつきは硬度が高く金属の強さを感じさせる。また、カメラをホールドしたときの滑り止めにもなっており、道具感にこだわった本機の個性を強くアピールしている。

ゼロからブランドをつくる

プロ用カメラおよび高級カメラを出したことがないリコーとしては、本機の性能の高さには自信があったが、リコーブランドをかざして市場に受け入れられるか、先行するブランド力のある競合機との住み分けができるかという不安があった。そこで、新たなブランド「GR」をつくり、社名を入れないというアイデアを出した。(当時 CONTAXというブランドはメーカーである京セラの社名が入っていなかった) カメラをGR1、レンズにGRレンズと名をかざし、プロカメラマンに使ってもらい写真集を出したり、ライカ用交換レンズとしてGRレンズ単体を発売するなど、コンセプトに沿ったプロモーションの甲斐もあり「GR」ブランドは定着していった。15年経った今日でも「GR DIGITAL」としてそのブランドとデザインコンセプトは受け継がれている。


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